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「眠いのか」

ハーロックの穏やかすぎる笑みに私は苦笑する。

「ん〜にゃ」

トチローはぶんぶんと首を振るが、次の瞬間にはまたこくりこくりと首を振り始める。
眠りまいとはする努力は認めるが、もうほとんど夢の中のトチローに私はそっと自分のマントをかけた。

「そうね、眠ってしまいなさいな、トチロー」




貴方と共有するものは、空気とことばと、それともう一つ




久しぶりの再会を祝しての酒盛りだった。
ハーロックとトチローと私。
三人で過ごす時間はひどく楽しくて、ついつい飲みすぎる。
だから、私もハーロックもトチローの様子に気づくのが遅れてしまった。
すでに気づいたときには、こくりこくりと小さく首を揺らしているたのである。

「可愛い」

「そうか?」

トチローのことではないのだけど。
マントに包まったことで安心したのだろうか、穏やかな寝息を立てて眠るトチローの髪を私はゆっくりと梳いた。


「可愛いわ」


「まあな」

トチローが可愛いのはもちろんのことなのだが、私は目の前のハーロックが可愛いと思った。


「可愛いかもな」

そんなに甘い表情で何をいうのだろう。


「嘘ばっかり」


私は笑った。


「かもな・・・だなんて。可愛いと思っているんでしょう?」

良い夢を見ているのだろう。
トチローの表情はひどく穏やかだ。
すうすうという寝息さえ聞こえる気がする。

そんなトチローを見つめるハーロックの表情は、こちらが照れてしまいそうなほど優しく甘い。


私は小さく笑みをもらす。


「どんな夢をみているのでしょう」


起こさないように、でも触りたくて仕方がなかったから、できうる限り優しくトチローの髪を撫ぜた。
トチローがくすぐったそうに微笑む。

本当に可愛いトチロー。

「きっと君の夢だろう」


それはどうだろうか?


「さあ、貴方の夢かもしれないわ」



私の夢だったら良いと思う。
でもそこまで望むほど私は愚かではない。
愚かではないが。



「ねえ、貴方はどんな夢を見ているの?」


貴方が私の夢を見て微笑んでくれるなら、こんなに嬉しいことはない。
私は机にうつぶせて、眠るトチローを観察する。
その柔らかな頬を人差し指で軽くつついた。
くすぐったそうにぐずるトチローに私は微笑む。



がやがやとした店の喧騒とは裏腹に、トチローの周りにだけ広がる穏やかな光景。
私は小さな喜びを覚える。




「可愛いわね」

「可愛いな」



ハーロック、貴方と共有するものは、空気とことばと、それともう一つ



最後の一つはきっと・・・・・。














どんがらがっしゃん〜!!




「お、お客さん!!やめてください!!」



突然の騒音に、私たちは反射的に音の発信源を確認した。



「ん。なんだ〜」


寝ぼけたトチローの声がする。
私は慌てて振り返り、目をこするトチローの背を優しくなぜる。


「なんでもありません、トチロー」


私はハーロックを見つめる。
ハーロックがこくりとうなずく。



「酒がまずいんだよ。えええええ、どうしてくれるんだ!!」



典型的なゴロツキだ。
店の主人がおびえた表情でなだめようとしている。


ひどく耳障りなことおびただしい。

ハーロックがイスから立ち上がる。

「お前、俺をなめてんじゃないだろうなああああ」



周りの客が面白がってたき付ける。
喝采が乱れ飛ぶ。


「・・・・・エメラ・・・・ル・・・・・・」


よほど疲れているらしい。
トチローはまだ夢の世界と現実世界を行き来している真っ最中だ。

それでいい。


そのままどうかもう一度夢の中に戻って欲しい。




「貴様、うるさいぞ」



邪魔しないで。



「ああ、なんだああ?兄ちゃん?」


起きたらどうしてくれるというの?



「トチローの眠りを邪魔するな」



男が私とトチローをちらりと見る。




「あああ??」


私の中の怒りがふつふつと沸きあがる。

貴方になんかトチローを見る資格なんてない。




「トチローを見るな、穢れる」





ハーロックの言葉に、一瞬、店内の喧騒が静寂を見せる。





「あああああ、あに言ってんだ。兄ちゃんよお」

どっと、店内が沸きあがる。

私は、心の中で小さくガッツポーズを決めた。

なんて気が合うのかしら、ハーロック。

さあ、トチローが目覚めない、そのうちに。


「貴様のような腐った根性の馬鹿に見られたら、俺のトチローが穢れるといっている」



貴方になんてトチローを見る資格はない。



「ああああ」


男の手がハーロックの首もとに伸びる。

その瞬間を見計らって、ハーロックはその男の右手を掴み、投げ飛ばした。

いい腕だ。

もちろんトチローと私がいるのとは反対方向に見事に投げ飛ばし、気絶させたその腕に笑みがこぼれるのをどうしようもない。




ゴロツキはそのまま気絶するが、周りの客が総立ちになる。



私は小さく笑った。




「俺の名はキャプテン・ハーロックだ。死にたいのならばかかって来い」




総立ちになった客がしんとなる。

別に彼が名前を売りたくてこういうことをしているわけではない。
それは知っているが、こういう場面では、宇宙に知れ渡るその名は非常に便利である。






「ハーロック」



私はハーロックの名を呼ぶ。
彼はこくりとうなずく。



「分かっている」


ハーロックは眠りについてしまったトチローを起こさないように、マントごと抱き上げた。
いわゆる姫抱っこというものである。


思わずため息をつく。



「じゃましたな、主人。行こうか」


トチローが好む砂糖菓子などよりも、なお甘いその微笑を残し、彼は飲み屋の扉を開ける。


「ええ」



私は飲み代より少し大目の代金を机の上に置くと、そのままハーロックの後を追った。















「眠っていますか?」


貴方の笑みはひどく優しい。
蕩けそうなその笑みに、私はくすり小さく笑った。

「ああ」



貴方と共有するものは、空気とことばと、それともう一つ






「眠っているよ」









トチローを愛しいと思うその心。




私はくすりと小さく笑う。








きっと私たちは何も変わりはしない。













大人気ない人たち(笑)

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