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「私は貴方を愛しています」

にっこり笑う紅蓮の女に俺は目を見開く。


女が愛するもの、それは俺ではない。
俺であってはならない。


「それは・・・・・・・・・どういう意味だ」


女はいつもと変わりない、優しく穏やかな笑みを浮かべていた。
手にした珈琲カップを机の上において俺は改めて尋ねる。



裏切るのか?
お前が?




親友の少し困った、それでいて、悲しげな笑みが脳裏に浮かぶ。


そして、たった一度だけ見せた慟哭が俺を震えさせる。



決してあってはならないこと。
それは決してありえるはずのないこと。



「どういう意味だ、エメラルダス?」

女は笑った。











彼女が海賊を愛する理由。





「答えによっては・・・・・・・・・・・分かっているのか?」

俺は静かに立ち上がり、腰から電磁サベールを引き抜くと、エメラルダスの鼻先に突き出した。


「俺はお前を殺す」


クイーン・エメラルダス。
女王。
紅蓮の魔女。
彼女をあらわす形容詞は多々ある。

だが、俺の中で、彼女はたった一つだけだ。




『トチローの愛する女』





たったそれだけで、それ以外の何者でもない。

それ以外の何者であってもならない。



そうでなければ自分はどうすればいいのか分からない。













「愛する男に愛していると告げるのは、可笑しな事ですか?」






俺は迷わずサーベルを突き出した。
エメラルダスはひらりと皮一枚のところで避ける。



「裏切るのか?」

「裏切る?何を?」


「トチローを、裏切るのか?」







「トチローは『好き』です。そしてハーロック、私は貴方を『愛している』」












机を蹴り上げる。
珈琲や茶菓子が空を舞う。

それは穏やかなはずの日常の崩壊にすら似ていた。



「死ね」




憎しみが溢れて止まらない。



トチローが愛した女。
その女、
俺が手に入れることのできなかった全てを手に入れた女
俺が欲しかったもの全てを手に入れた女。





許せない。



許せない。



消えてしまえばいい。




この世界から。





くすりと女は妖艶に笑う。








「ええ、誰よりも何よりも、だって貴方は私に似てますから」
「貴方は私が欲しかった全てのものを手に入れた『私』ですもの」






「そして」





魔女の瞳が表情をなくす。






「私が得たものを欲しいとねだるところまでそっくりだと思いませんか?」









俺は剣を落とした。
かしゃんという音がやけに静かな部屋に響き渡る。






「お前は・・・・・・・・・」


こくりと静かに女ののどが動く音がヤケに耳についた。



「そして言葉を封じられてしまった私と一緒」

封じられた言葉を彼女は愛しげに語る。

アイシテイル

女はゆっくりと俺ののどに手を伸ばした。

「ねえ、貴方も封じられてしまってるのでしょう?」

アイシテイル

「私は何よりも貴方になりたい、貴方は何よりも私になりたい」


ゆっくりとその手に力が込められる。





「殺してしまいたい、この世からいなくなればいい、そう願いながら、均衡を保とうとしている『私』」








抵抗できなかった。






「私はトチローを好きな『私』を愛しています」







永遠に続く綱渡りのような危うい均衡。
魔女は哂う。




「ねえ、だからハーロック」




アイシテイルと呟く紅蓮の魔女。






「決して私を裏切らないで」








そして彼女は俺の瞳にそっとキスをする。







俺はそれを黙って受け入れることしかできなかった。













エメラルダスが怖い話。
ハーロック災難です。

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