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「トチロー?」
床といわず、机といわず、本がこれでもかと並ぶ男の部屋に入ったとたん、漂う甘い香りにエメラルダスは眉をひそめた。
「おう、エメラルダスか。良い所にきたな。飲んでいくか?」
本を押し分け、声のする方向に進む。
本の隙間に埋もれるようにいる男を発見したエメラルダスは、その眼の下の濃い隈に思わずため息を吐いてしまった。





Prey on 《Tochiro》.











「ずいぶん寝てないと聞きましたよ」
あきれ半分、怒り半分のエメラルダスの声に、トチローは思わず頬を引きつらせた。
「あはははは。いやあ、そのいい感じで研究が進んでなあ」
トチローの言葉に、エメラルダスは足元に広げられた白い図面に目を落とす。
相変わらず他者にはまねできない素晴らしい設計である。
エメラルダス自身、科学者としての才は一般的な科学者よりも上だという自信と自覚があった。
しかし、その才能をもってしても、目の前のエンジニアを越える日が来るとは、自惚れることはできない。

目の前の、決して冴えた容貌とは言えない小さな男が、『天才』であるということを改めて思い知る一瞬である。
しかし、不思議と悔しさは沸いてこなかった。
神に愛された存在とはこういうものだということを再確認するだけだ。


しかし、その『天才』という事実と、目の下を真っ黒にしている事実とはまた問題が別である。



「貴方が無理をするのは昔からですけど、少しは身体に気を使ってください!」
「分かった、分かったからそう怒るな。で、飲むか?」

トチローは右手に持ったマグカップを少し上に上げて見せた。
周囲の甘い香りに、改めて気づく。

「何ですか?」
「ん?ココアだよ」

トチローは笑ってとろりとした茶色の液体をエメラルダスに差し出した。



「ココア・・・ですか?」
「そう、ココア。一応研究がひと段落ついたんで、こいつ飲んで寝ようと思って」



甘ったるい香りの原因がようやく分かり、エメラルダスは思わず大きなため息をつく。



「トチロー、砂糖何杯入れました?」

トチローは酒が苦手である。
そして酒が苦手な人間は、いくらかの例外があるとはいえ、大抵甘いもの好きであるらしい。


トチローもその類にもれず、しっかり甘党であった。


「ん〜、七杯」

「七杯・・・・ですか・・・・」


しかし、トチローの甘党は常人を超越しているところがあった。


「その内糖尿病になりますよ」

「別に甘いもの食べるから糖尿病になるわけじゃないぞ」

「・・・・・・」

トチローは甘いものを食べるときは本当に嬉しそうである。
甘いものを食べているときのトチローは、思いっきり欲目なのは自覚してるが可愛いとエメラルダスは常日頃から感じていた。


「で、マシュマロを浮かべるっと」



五つのマシュマロがココアに投入される。
甘い空気が更に濃く広がる。
とろりと溶けた白いマシュマロはどれほど甘いのか。
甘いものが苦手なエメラルダスにとって、この空間は拷問でしかない。


「で、どうする?いるかエメラルダス?」



エメラルダスは思う。
恋は盲目とはよく言ったものだ。



「・・・・・頂きます。でも砂糖は一杯でいいですからね!」

「そっか!よし美味いの入れてやるからな!」




結局はトチローの笑みに負けたエメラルダスであった。













「甘い・・・・・ですね」

「美味いだろ〜」


トチローの顔は本当に嬉しそうである。
エメラルダスは思わず苦笑してしまう。

ココアは、甘いものが苦手なエメラルダスでも飲めないことはなかった。

確かに甘いのだが、普通のココアとは違い、深いコクがある。


「この前、飲ませたとき苦手っぽかったからなあ。バターを少し入れてみた」

「なるほど」


バターでコクを出したらしい。
それに砂糖も少なめだ。
前にココアを貰い、思わず吐き出しそうになった自分に少しは気を使ってくれたらしい。
これならば飲めないこともないとエメラルダスは思う。



「ありがとうございます」

「いえいえ、どういたしまして」




悪戯めいた表情で笑うトチローに愛しさを感じ、エメラルダスは思わず微笑んだ。
しかし、ふっとわれに返る。




「でも、このココアでまさかごまかされるとは思ってませんよね。この前あれほど無理はしないって言っていたんですから」



エメラルダスは、意識的に綺麗な微笑みを作り上げる。



トチローはたらりと汗を流した。



「あはははは。やっぱり怒ってたりする?」


そう、本来の目的はココアではない。
トチローを叱りにきたのだから。


「怒ってないとでも」




小さく後ろに下がるトチローをエメラルダスは見逃さなかった。

獲物を追い詰める肉食獣のようにゆっくりと足を前に進める。





「トチロー」

「・・・・・なんでしょうか、エメラルダスさん・・・・・・・・」

「ハーロックが私に通信入れてくるくらいです。どれくらい徹夜していたのですか?」

「いや、まあ。そのお・・・・・・」

あの、決して自分に対して良い感情を持っていないハーロックがエメラルダスに助けを求めてきたということ。

それだけですでにトチローの無理がうかがえるというものである。

トチローがますます後ろに下がる。

エメラルダスは静かに、しかし笑みを絶やさず追い詰める。



がさりと本が崩れ落ち、トチローの背中が壁に当たった。


「・・・・・・・」

もう、彼に逃げるところはない。


「ねえ、トチロー」




逃げ場所を失った獲物の頬を、女豹のしなやかで危険な手がゆっくりとなで上げる。
女豹に捕らえられた男はごくりと唾を飲むこんだ。




「美味しそうですね」




そして、女豹は唇を喰らう。



「!$&”(#!!’)%%‘??????」




突然のことに固まるトチロー。


「甘いですね。やっぱり」



その頬にわずかに残るココアをなめ上げ、エメラルダスは耳元で小さくささやく。



「今回はこれで許してあげます」



その圧倒的妖艶さに気後れしたトチローはぺたんと床に座り込んでしまった。




腰を抜かしたらしい獲物に満足し、女豹は獲物を開放する。






エメラルダスはくすりと艶やかに笑う。




「ごちそうさまでした」




そうしてエメラルダスは硬直したままのトチローを残し、マントを翻しさっそうと出口に向かい歩き始める。



「・・・・・・あはははははは・・・・・・・」




ようやく硬直が解けたトチローは情けない笑いを浮かべるしかない。






しかし、出口直前、エメラルダスがくるりとトチローを振り返った。






「あんまり徹夜ばっかりしてると・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



再び魔性の笑みを浮かべるエメラルダス。


「啼かせますよ」









「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





完全に凍りついたトチローであった。






















You are my game.
Mind is given so that it may not be hunted.
The dear sweetheart of mine!






























おまけ




「・・・・・・エメラルダス」
「はい」
「なんか襲う気まんまんって感じだったな」



「あら、本気で襲っても良かったんですよ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」



にっこりと笑みを浮かべるエメラルダス。


「少なくともキスを反撃してきたら、そのまま食べてしまっても良かったんですけどね」


「・・・・・・・・・」

「疲れているあの人って、少しそそるものがありますし」

「・・・・・・・・・」

「でも、反撃できないほど疲れているあの人を襲うのも気が引けましたから」



「・・・・・・・・・」



「しっかり眠らせてあげてくださいね」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」





女の怖さ(この場合エメラルダスか?)を思い知ったハーロックであった。









時にはエメラルダスだって怒りますってコトで。
トチローさん襲われてます。
エメラルダス襲ってます(笑)
喰うのはエメラルダスです。
喰われるトチロー。
そしてへたれなハーロック。
エメラルダスのほうが強いです(笑)



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