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貴方がいなければ良かった。
貴方が存在しなければ良かった。
そうすれば、私はきっと違う形の幸せを見つけることができたのに。

そんなこと望みはしない。それはきっと今よりきっと

「じゃあ、今から消えようか?」
「今更消えたところで無駄です」



無駄だって言ったのに、消えないでっていったのに




綺麗な生き物


鐘の音が響き渡る町で、その二人はその少女に出会った。



「あ、なんだ?これ」
私に向けて堕ちてきた物体を反射的にかばって受け止めてしまったトチローが、その物体に首をかしげた。
ピンク、黄色、白、鮮やかに咲き誇る小さな春。
「ブーケ・・・・・・・・でしょうか?」
私は少し困った顔をしていたに違いない。
「ぶ〜け〜??」
ほんのり桜色がかった紙で包まれた「ソレ」をトチローはまじまじと観察する。
ブーケぐらいトチローだって知っているだろう。
ただ、戸惑ったのだ。
「なんつうか・・・・・貧相だな・・・・・」
実際、本当に季節の花を束ねただけのそれは、ブーケというより花束?といった方が正しそうなものであった。

しかし遠くから走ってくる小さな影。
それで全てを察した私は、にっこりと笑い、トチローの手から、ブーケをさっと奪い取った。

「え?」

一瞬、唖然とするトチローだが、とてとてと走ってくる質素な白いワンピースと、そのちいさい身体には不釣合いなまでに大きなベールを羽織った少女に気づくと笑った。

「なるほど・・・・な」

「男が取ったんじゃ、夢がないでしょう?」

すなわちそれは世で言うところのウェディングブーケという奴であったらしい。

少女、いや、幼女とでも言った方が良い子供は私がその手に持つウェディングブーケを見ると、ぱっと顔を輝かせた。
「お姉ちゃんが取ってくれたんだ!」

「ええ、小さな花嫁さん?」

小さなブーケは少女が作ったものらしい。
それは小さな結婚式のブーケ。

「あのね、ルビーね。花嫁さんなの。お空にぽんって投げるんだよ。それでね、次の幸せな花嫁さんが決まるんだよ」

「そう、幸せな花嫁さんになれるのね、私」

私は笑う。そんな未来がないと知ってても


鐘が響き渡る小さな町で、私とトチローは小さな花嫁に出会った。









幸せになりたいといったら、貴方はきっとこの手を笑って放すのだろう。
この手を放せば、幸福になれるかもしれないということを私は知っている。
貴方を忘れれば、いや、貴方を諦めることができたなら、私はきっと幸せになれる。



でもそんな幸せ、欲しいわけがない




そんな当たり前で今更過ぎる事実を蒸し返さないで欲しい。

分かっていて、子供のように「決して離しはしない」といったのは私なのだから。













トチローは微笑を浮かべ、小さな花嫁のその小さな手をとった。


「幼き花嫁に祝福を」
恭しく、紳士のキスを少女に送る。
幼い少女はきゃっきゃとはしゃいぐ。
私は少しだけふてくされた。そんなことされたことがない。

「おじちゃん、似合わない〜」

「誰が、おじちゃんだ、誰が。立派なお兄ちゃんに向かって」


トチローは少し怒ったフリをして、小さな女の子とじゃれあう。
その姿は、なんだか小動物どうしのじゃれあいをみているようで微笑ましかった。




「おじちゃん、じゃあね!」
花婿が来たのだろう。
幼い少女は満面の笑みを浮かべトチローに別れを告げた。
トチローは苦笑しながら、その子供の頭を優しくなでた。
「じゃあな」
「うん!」

バイバイ〜と叫びながら、とてとてと駆けていく少女を見送るトチローの表情はほんのり優しい。
「おじちゃんですか、トチロー」
私は笑った。
トチローは頭を掻きながら苦笑する。
「俺、まだ二十代前半なんだけどな〜」
「トチローがおじちゃんなら、やっぱり私はおばちゃんでしょうね」
「うわ、似合わん、エメラルダスおばちゃんなんて・・・・」
「・・・・・・・・トチロー・・・・・・・・・・・」
「いや、笑顔で青筋はやめようよ、ね、っていうか、エメラルダス!!」
私がサーベルに手をかけているのを見て、トチローは本気で焦る。
冗談ですよ、と私は笑った。
微妙に冗談には見えなかった、とトチローは呟く。
私はあえて聞こえないフリをした。




「おばちゃんは嫌?」
嫌、ではないと思う。
多分。

でもどうせなら

「嫌じゃないですけど。いやですね」
「なんだよ、それ」
「まあ、貴方に言われるのは嫌だということです」

「変なの」

貴方と共に呼ばるならそれもきっと楽しい、そんな未来はないって知ってるから、悲しい


「俺は子供好きなんだ」
あまりトチローには似合わないカフェで、これまた似合わない(もっとも本人はかなり好きなのだが)ミルクセーキにマシュマロを浮かべたものを、幸せそうに飲みながらトチローは言った。
「そうなんですか?」
「そうなんだよ」
ちなみに私はホットコーヒーだ。
しかし、どれだけ泥水のように濃いコーヒーでも、消しきれないミルクセーキの甘ったるい臭いが微妙に嫌な感じだ。
大体、私はあまり甘いものが好きではない。
「なんかこう、綺麗な生き物って感じがするだろう?」
よく分からない。
「綺麗な生き物ですか?」
「そう、何も知らない、何も分からない、しかし純粋で真摯なところが」
さらに分からなくなった。
「何も知らないということは罪でしょう?」
「そうか?」
トチローは心底不思議そうな顔で私を見る。
「何も知らないっていうことは罪だと私は考えます。知らなかったではすまされないことが世の中には多々ありますから」
「そうか?」
微妙に苛立つ。
トチローほど頭の良い人が、何故こんなことを言い出すのか理解できない。
「幼いということは残酷さにつながると思いますよ」


「知っている、そして、知った上で行う行為の方が残酷だろう?」


貴方は何が言いたい?


「知らない方が残酷ですよ、なんでもできますから」


「知識を持った残酷さの方が、残酷じゃないか?」



私は笑った。
「私は自分のやっていることの悪を自覚している悪人は嫌いじゃないんですよ」



「綺麗な生き物なんてこの世にいませんよ。皆、汚いんです。汚いからこそ、綺麗なんですよ、多分」





「でも知らないでいて欲しいと思うのは間違いか?」





貴方は何が言いたい?




「思いません」



「大人の我侭だよ」





貴方が何を言いたかったのかを知るのは、随分後になった。




貴方はいつも言葉が足りなくて




幸せになりたいといったら、貴方はきっとこの手を笑って放すのだろう。

いわなくても放されてしまったこの手

この手を放せば、幸福になれるかもしれないということを私は知っている。

今、放したところでもう幸福になどなることはできないのに

貴方を忘れれば、いや、貴方を諦めることができたなら、私はきっと幸せになれる。

忘れることなどできるはずもない。諦めることなどできるはずもない














貴方は大人だった。
私は子供だった。






ただそれだけの話。




本当に久しぶりの更新です。
忘れられてますね、多分(泣)
綺麗な生き物は大好きです。
しかし、汚い生き方も大好きな今日この頃です。
一番、綺麗なのは多分ハーロック、その次にエメラルダス。
トチローとメーテルは同率最下位でしょう(笑)

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