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目の前の男が見苦しく乞う。

「貴方のことなんてすぐに忘れてあげるわ」

見苦しく、浅ましく。
私はそれがうらやましくてならない。


私も浅ましく、醜く。

あの人の愛を乞うことができたなら。




叶うことない夢を見る




「お前はなんつ〜馬鹿なんだ!!!」
どういう伝を使ってか、私が怪我をしたことを知ったトチローが見舞いの花を投げつけ叫んだ。
ほとんど顔の全てを口にしたような調子で怒りつけるトチローを見てなんだか懐かしくなってしまう。
幼い頃に戻ったみたいだ。
少し嬉しくさえ感じてるといったらこの男はどうするのだろう?
「少し油断しただけですよ」
投げつけえられ、少し崩れた薔薇の花束を拾い上げ、私はくすくすと笑った。
「ほお、少し油断ねえ」
トチローがじろりと私をにらみ上げる。
私は苦笑するしかない。
やっと動けるようになったとはいえ、自身の油断のせいで包帯塗れになっているのは事実なのだから。
「ごめんなさい、まさか貴方に知られるなんて思ってなくて」
遠い宇宙での、しかもたまにしか会うことができないトチローに知られるなんて思っても見なかった。
それだけトチローの情報網がすごいということなのだろうか?
トチローが敵でなくて本当に良かったと思う。
もし敵だったならば、隠れ家も何もかも暴きたてられて随分前に死刑台行きだったに違いない。



もっともトチローが敵に回るようなことがあれば、私は何もかも、己の復讐さえ捨てて、トチローに殺されてしまうことを夢見るのだろうけれども。




「あのな、エメラルダス」
トチローがそれでなくてもぐちゃぐちゃで痛んだ髪をかきむしりながらため息を吐いた。
「なんですか?トチロー?」
私は整えた花束をテーブルの上に置き尋ねる。
真っ赤な薔薇の花束。
トチローがどんな顔をして買ってきたのかと思うと少し可笑しい。

「俺はお前が心配なんだが・・・・・・・・俺には心配する権利すらないのか?」



私は哂った。












「何故俺のものにならない?」
「俺には全てある」
「愛しているんだ、エメラルダス」


この傷を負わした男の言葉を思い出した。







「助けてくれ!」
「俺は死にたくない」
「俺にはやりたいことがある」






浅ましくも愚かな男のことば。
それでもこの言葉に油断してしまったのは私。




男にトチローを重ねてしまったのはこの私。




『生きたい』
そう願ったトチロー。
『まだやりたいことがある』
そういったトチロー。



そして
『愛しているよ』
最初で最後の愛の言葉。





「貴方に心配する義務なんてありませんよ」
「エメラルダス!!」




私は哂った。
そして微笑んだ。



「この手も、瞳も、唇も、何もかも私のためにありはしないでしょう?」
一つずつ、ゆっくり辿る、私のために決して存在しない、私の愛するもの。
これは全て、たった一人のためだけに、存在するもの。
『彼』のためだけにあるもの。
トチローは否定するかもしれない。
肯定するかもしれない。

どちらの答えも聴きたくはなかった。


私のためにはないのだと知っているのだから。



跪き、その小さな体に縋り付く。
傷より痛いものがあるとトチローは知っている。
優しさが時にはどんな凶器よりも鋭い刃になりえるということをトチローは知っている。


そして知らない。
貴方を殺してしまいたいと、貴方に殺されてしまいたいと、願う愚かな女がここにいることを。





「エメラルダス!俺は!!」
「でも権利ならありますよ、心配してくれてありがとう。でももう貴方に心配はかけないから」









何か言おうとする小さな身体を抱きしめた。
再び開いた傷が悲鳴をあげる。









「愛しているから、君を殺して僕だけのものにしてしまいたい」

身勝手な男。
「まだ生きて、君と愛し合いたい」

愚かな男。
「君に殺されるのもいいね、これで僕の命は君だけのもの」


馬鹿な男。
吐き気がした。
「貴方のことなんてすぐに忘れてあげるわ」





けれども男は私に似ていた、トチローに似ていた。







「エメラルダス、俺はお前のことをだな!」
「知っています、トチロー」



貴方が私のものにならないことぐらい。
うるさい口をそっとふさいで私は言葉にできない愛を叫ぶ。




「アイシテイマス」




ああ、どうか貴方に醜く愛を乞うことができたなら。








「愛しているんだ!エメラルダス!!」






叶うことない夢を見た。































久しぶりの更新です。
エメラルダスを書くたびに思うのはいいから別れろ、そんな男。
だったりします。
でも別れられないからエメラルダスだとも思うのです。

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