「お前が俺だけのものだったらいいのに」 ある日、ふとそう口にした。 ゲシリ! 右足のすねに蹴りが入る。 「!!!!!!!」 あまりの痛さに、俺は思わずしゃがみこむ。 「何をするのだ、トチローよ」 「何をじゃねえ!何考えてるんだ。オノレは!いきなり気持ちが悪いことを言うな!」 トチローがぎっと睨み付けていた。 しゃがみこんで、やっと目線が同じになる小さな男。 その睨み付ける男をじっと見つめ返す。 「・・・・・なんだよ」 「願望だ。気にするな」 そして、そのまま地面に座り込んだ。 ほんの少しだけ、見上げる形になった小さなトチロー。 俺は大きくため息をつく。 トチローが心配げな表情を作る。 「どうしたんだ。親友?前々から脳みその線が一本切れてるんじゃと思っていたが、とうとう全部壊れたか?」 「お前が俺をどう思っているか良く分かったよ。ト○ロ」 「だ〜れが○トロじゃ、誰が!!」 「じゃ、抱き枕トチローくん」 「ハ〜ロ〜ッ〜ク〜!!!!!」 ぎゃあぎゃあ文句を言い始めた声を無視して、俺はその小さな頭をぐしゃりとかき回す。 見た目よりも柔らかい髪は、自分が最も好きなトチローの部分の一つだ。 別にそれだけが好きなわけではない。 小さいくせにやたらとしっかりした手も好きだし、これまた小さいくせに高い知性を感じさせる眼差しも自分が好むものだ。 靴のサイズが子供靴でもO.Kな、ある意味希少価値の高い足も好きだ。 更にいうならば、抱きごごちは柔らかく暖かいので抱き枕に最適である。 その小さな頭の中の、とてつもなく大きな頭脳が好きだ。 大好きな大好きなトチローなのだ。 「だが、俺だけのものじゃないだろう?」 「はあ?」 こんなに大好きなのに、こんなに大切なのに、トチローは自分だけのものではない。 時々、本当に時々それが悲しくなる。 「お前が俺だけのものだったらいいのに」 「一体、さっきからどうしたんだ、お前は」 トチローは、とうとう怒ることを放棄したらしい。 「どうしたいんだろう?」 トチローが自分だけのものだったらいいのにと思う。 でも、だからといって鍵をかけて小さな檻の中に閉じ込めてしまいたいわけではない。 柔らかで暖かい宝箱に仕舞い込んでしまいたいわけでもない。 閉じ込められてしまったトチローはトチローではないと思うし、きっとそんなことトチローも望みはしないだろう。 だが、それでも、トチローが自分だけのもので、自分だけしか見なくて、自分だけの傍にいてくれたらいいと思うのだ。 檻に入れて閉じ込めても、この天才エンジニアなら自分でさっさと鍵を作って脱出してしまうだろう。 どんなに柔らかで暖かい宝箱に仕舞い込んでも、仕舞い込まれてはくれないに違いない。 鎖で縛っても、多分鎖を刀で切ってどこかに行ってしまう。 では、骨を折ってしまえば良いというかもしれないが、大好きな手だから折るのは嫌だった。 足を折っても、這ってでもどこかに行ってしまうだろうし、大好きな足だから折るのは嫌だった。 それに、そんなことをしたら、切り捨てられるのがオチだとわかっているからできない。 トチローはそんなことをしたら、きっと自分を見なくなる。 トチローが簡単に自分を切り捨ててしまえるかもしれないことは、あまり認めたくはないが、なんとなくは分かってる。 それが、自分が大好きなトチローなのである。 「いや、俺が聞いてるんだって」 「わからん」 「コラ待て」 「だって宝箱に入れてしまったらトチローじゃなくなるだろう?」 「はあ?」 「檻に入れてもお前はどこかに行ってしまいそうだし、足折ってもお前這いずってどこかに行ってしまいそうだし、、大体そんなことして嫌われるのは嫌だし」 「お〜い」 「手を折るのも嫌だし、お前はそんなことしたら俺のこときっと見なくなるし」 「お〜い、言葉をきちんと脳に通してからしゃべってるか?」 「きっと、俺のこと切り捨てて何もかも見なくなるんだ」 なんだか言っていて悲しくなってきた。 涙がでそうになる。 「お前、実は眠いだろ」 「こんなに好きなのに」 こんなに好きなのに、どうしてお前は自分だけのものじゃないんだろう。 「ば〜か」 トチローが片手で俺の頭を押さえつけた。 小さな胸に俺の頭が乗っかる。 もう片方の手が俺の背を軽く叩く。 「何、宇宙最強予定の海賊様がぐちってんだよ」 「だが、トチローは俺だけのものじゃない」 「でも、ハーロックだって俺だけのじゃないだろ?」 「別にお前がそうして欲しいなら、檻の中にでも鎖にでもつながれてやるぞ」 「誰がそんなマニアックなプレイを望むか、馬鹿。大体、お前一箇所にじっとすんのキライだろうが」 「別にトチローがいるならそれでもいい」 本当にトチローが傍にいてくれるならばなんでもいい。 鎖に繋がれたって、檻に閉じ込められたっていいと思う。 「でもな、誰かが誰かだけのものになるなんてことないんだよ」 トチローが優しく笑った。 「『貴方だけのものに』なんて芝居でよくあるセリフだけど、どうやったって生きてる限りは、誰かと関わんなきゃ生きていけないんだ。それにたった一人の誰かのためだけに生きてる人生なんて虚しいだろ?俺はハーロックのことが好きだけど、エメラルダスだって好きだし、メーテルだって好きだ。ミーメだって好きだし、ヤッタランだって好きだし、トリさんだって好きなんだよ。それに叶えたい夢だってある。お前もそうだろう、ハーロック。大好きな人がいて、叶えたい夢があるんだろ。俺はお前だけのものになれないし、お前のためだけには生きられない。でも、それはお前も一緒だ。叶えたい夢があって、大好きな人がいる限り、お前も俺だけのものにはなれないんだよ」 「だが・・・・・・・・・」 なんだかだまさている気がする。 「それにな、俺がお前を檻に閉じ込めたと仮定しよう。で、俺がその檻から遠く離れたところでピンチになったとする」 トチローは笑った。 「誰が俺のこと助けにきてくれるんだ?」 「俺が行く」 トチローがピンチならば、俺はそこがどんなところでも必ず助けに行く。 「馬鹿か?お前は檻の中なんだぞ、大体お前が俺の作った鍵を壊せると思うのか?」 この天才エンジニアの檻を? トチローが意地悪く問い返す。 ・・・・・・・・・・・。 確かにそれは無理かもしれない。 「それに逆のパターンだってある」 逆のパターン? 「俺が檻に閉じ込められていたら、誰がお前のピンチを助けに行くんだ?俺はのうのうとお前が殺されかかってるのを知っていて、檻の中でお前の帰りを待たなきゃなんないのか?そんなこと死んでもイヤだね」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・。 トチローは本当に頭が良くて、意地が悪い。 そんな言い方されたら、もう何も言えないじゃないか。 俺は答えるかわりにぎゅっとトチローを抱きしめた。 「好きだよ、ハーロック」 トチローは優しい。 そして意地悪だ。 「俺も好きだ」 そしてそんなトチローが俺は大好きなのだ。 「本当に、お前が俺だけのものだったらいいのに」 「まだこのガキはそんなことをほざくか?」 「願望だ、ただの」 強くて、優しくて、意地悪な俺のトチロー。 大好きな大好きな俺のトチロー。 思うだけならかまわないだろ? そういったら、トチローは、『ば〜か』と笑い、俺の髪をぐしゃりとかき回して言った。 「思うだけなら自由だよ」 そう、笑ってくれたので、思うだけにしておくことにした。 本当、お前が俺だけのものだったらいいのに。 |
・・・・・・甘っ!!
いや、こんな二人だからこそ大好きなんですけどね。
しかし、甘いな本当に。
とりあえず砂糖の山が出そうな二人ですが、二人の関係は『親友』です。
『親友』なんですってば〜!!
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